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【突撃!巷の隠れヒット品番】〈ハバーサックアタイア〉のミノテックスフィッシュテールコート(仲町台Euphonica)

スマホの画面を眺めているだけでは知りえない、お店で地味にひっそりと、でも確実に売れている商品を調査するこの企画。
名付けて、「突撃!巷の隠れヒット品番」。
ただ悲しいかな。これを機に露わになるわけで、若干の矛盾を感じなくもない…。とまぁ細かいことは気にせず、お店に話を聞いてきました!
今回、忖度なしで教えてくれたのは、仲町台という地域に密着した洋品店『Euphonica』のオーナー、井本征志さん。そのマニアックさでも服好きの間で人気を博す同店の隠れヒット品番とは?

井本征志さん
1978年神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後さまざまな業界の職を経て、2015年地元である仲町台に『Euphonica』をオープン。公開から3年経ってもSNSで度々話題に上がる90年代ファッション座談会の発起人。
色気のあるコート
ーーズバリ、ユーフォニカさんの隠れヒット品番はなんでしょう?
井本さん(以下、井本) 〈ハバーサックアタイア〉のミノテックスフィッシュテールコートです。

ーーなんだかすごい名前ですね。ブランドは〈ハバーサック〉の別ラインですか?
井本 そうです。
ーーどんな違いがあるんですか?
井本 ハバーサックとハバーサックアタイアの違いって、フィーリングだけなんです。
ーーなるほど……。
井本 アタイアがどんなブランドか、難しいんですね……。濃い、道楽……。
ーー僕個人の印象はクラシカルな印象です。
井本 でもね、そんなにクラシカルじゃないですよ。基本的には過去のいろんな服を解析して作っているんですけど、レプリカは絶対作らない。
ーーあ、そうですか。
井本 編集してるだけ。編集するために過去の服を引用しているだけ。
ーー編集?
井本 例えばここ。ここから下が米軍なんですよね。で、ここから上は袖意外米軍とはまったく関係がない。

ーーはい。
井本 普通のステンカラーの形に米軍の袖と、裾を足してるんです。だからこういう米軍の服が過去にあったわけではない。
ーーなるほど。組み合わせ、編集ですね。
井本 はい。レプリカを作ろうと思ったらいくらでも作れる人たちです。でも、まったくその気がない。話を戻して、この2つのブランドの違いを強いて言うなら、アタイアのほうが色っぽい。ハバーサックのほうは煤(すす)けてますね。なんとなくのイメージですけど。
とことんやっちゃう、ハバーサック

ーー詳細を覗いていってもいいですか?
井本 もちろん。これね、岩崎さんに着てもらったほうが一番早いです。
ーーあ、そうですか。じゃ、ゆうや(岩崎)さん。
(カメラを担当していた岩崎が試着)
(岩崎:うわあ、これはいいですね。軽いし、立体感がすごい。シルエットも結構たっぷりしてますね)
井本 ポリエステル100%の服を着てるって感じがしないでしょ。
ーーえ、これ、ポリなんですか?!
井本 ポリですよ。だからね、化繊がダメとかそういう話じゃないんですよ。そういう単純な話ではない。
ーー化繊VS天然繊維ですか。
井本 二元論じゃダメなんですよ。
ーーハバーサックの編集力は二元論を超えた。
井本 そうです。ハバーサック自体も元々は天然繊維のほうが良いというのはあったみたいですけど、化繊が進化してきて「良い素材があるじゃん!」となったみたいで。
ーー懐古主義ではないと。
井本 ですね。柔軟です。
ーーハバーサックは、古い服をアップデートしている?
井本 近いかな。正しくは、古い服の良さを今の技術を使って再現している。端から見たブランドのイメージとは違って、実際はそんなにクラシッククラシックしてないですよ。彼らの良いと思っているものがそのゾーンなだけであって、クラシックを作ろうと思っていない。あくまで現代の服を作るというスタンスです。
ーー生地にもそれが表れていますね。
井本 これはミノテックスという生地ですね。高機能ですよ。水がついてもコロコロ弾きます。
ーーそれはありがたい。でも、こんな高機能な生地で綺麗なシルエットが出るんですね。
井本 出るんですよ、ミノテックスは。それを使って、アウトドア調にせずすっきりした面構えのコートを作るという。この編集力ですよ。
ーーその他、ブランドらしいポイントはありますか?
井本 裏が綺麗ですね。裏の始末が綺麗であることは、服にとってすごく大事なことだと思っています。
ーーというと?
井本 単純に裏の始末がキレイだと気持ちよくないですか。
ーーあ〜、はい。
井本 着る時も、見る時も。持ってて気持ちがいい。それに、裏の始末が綺麗な服で手を抜いてる服はないですよ。
ーー逆に言うと、下着に手を抜いてる人でおしゃれな人はいない?
井本 う〜ん、ニアです(笑)
ーー失礼しました(笑)
井本 でもまあ、本質的にはそういうことです。あとはここですね、やっぱり。撥水性のある生地を活かすために、一旦ポケットのフラップの生地を深めにとって折っています。だから横から水が入ってこない。

ーーわあ、すごい。
井本 ほんと、こういうところの気配りですよね。しかも、それを殊更にアピールしない。僕はこれ、展示会で説明を受けてませんからね。
ーーえ。
井本 こういうことをね、当たり前のようにやってくるんですよ。どこを見ても、ここは見えないからコストをカットして上代を下げようみたいな、そういう発想がない。とことんやる人たち。
ーー男前ですね。
井本 あと、実はここね……

ゴムが配されているんです。
ーーええ!!
井本 ほんとにね、ハバーサックの服は探すとどんどん出てくるんですよ、ネタが。しかも、全ての服をこのテンションで作るんで。
ーーものすごいコストですね。
井本 型数も多いですからね。大したものですよ。
お店の価格帯が上がってしまった

ーーそもそもハバーサックを取り扱い始めたのはいつ頃ですか?
井本 4年前かな。
ーーきっかけは?
井本 お電話をいただいて。
ーーそりゃそうでした(笑)
井本 最初は正直ピンとこない、いやピンとこないじゃないな……。うちじゃないと、思ったんですよね。でも「良いから来るだけ来て」って言われて。
ーーはい。
井本 で、行ったら、物のパワーに負けてしまった。
ーー 一目見て。
井本 一目見て、着て。あ、これは他のブランドとは違うなと。
ーー最初は「うちじゃない」と思っていたけど展示会終わりには……。
井本 やる、です。でも、これは編集の仕方だと思いました。お店の提案の仕方次第でいけるなと。ハバーサック単体だと濃いけど、うちのフィルターを通したらいける。で、やってみたら案の定、非常に評判が良くて。
ーーおお。
井本 ハバーサックを買った人って、次にまたハバーサックを買うんですよ。
ーーへえ。
井本 で、ハバーサックを買うと服に対する基準が厳しくなる(笑)
ーーうわあ、大変(笑)
井本 恐ろしいブランドですよ。ハバーサックをきっかけに常連さんになった人は少なくないです。最初は違うブランドを目当てに来たんだけど、「うわ、なんだこれすごい」って。それ以後、ハバーサックにハマってしまう。
ーーなんか、こう…人を…。
井本 人を狂わせてしまうブランドですね。服のパワーだけで人を籠絡してしまう。
ーーでもユーフォニカさんはそんなブランドが多い気がします。
井本 そんなブランドばかりになっちゃったんですよ。ハバーサックのせいです、うちがそうなったのは(笑)。だって、昔より価格帯が上がっていますからね。
ーーあ、そうなんですか。
井本 例えば、特にジャケットは価格に対してのクオリティが桁違いです。そうすると、ほかのブランドの商品もそこに面を合わせなきゃいけないんで、必然的に価格帯が上がっちゃうんです。うちからインポートが減っていった理由のひとつでもありますね。「え、これでこの価格だったらハバーサックが良いな」ってなっちゃう。

ーー店頭に並んでまだ一ヶ月弱ぐらいだと思いますが、どうですか、お客さんからの反応は。
井本 やっぱり「軽い」っていうのと、「着心地がいい」っていうのと。あと、「着ると思ったより良い」ってよく言われますね。
ーー思ったより。
井本 着た時のほうが良いんですよ。ハバーサック全般に言えることです。全体的に物としてのキャラは濃くて、とっつきにくいんですけど、着るとそうでもない。着ないとわからない。
ーーでも着なくてもわかる。
井本 もちろん展示会で気になったものは袖を通しますけど、ハバーサックを何年もやってるから、この服は着たら良いってのは、ある程度は経験値でわかるんです。展示会でも見た瞬間、着る前に「はい、これはやる」という感じで選ぶこともありますから。
ーー物としてのパワーですね。これはどんなお客さんに選ばれているんですか?
井本 いや〜広いですよ。比較的、なんだろうな……柔らかめの人が買う傾向があります。あと、トレンドがとか、いま注目のアイテムがとか、これから来るアイテムがとか、そういう目で見ていない人。単純に良いか悪いかでジャッジでする人。
ーー厳しい人たち、ですか。
井本 うちが流行りのブランドなんかやった日には見放しそうな人たち(笑)
ーーさじ加減ひとつミスったら……。
井本 ほんとにそうですよ。それでオファーをお断りしたブランドはいくつもありますし。
ーーそんな方々が大好きなハバーサック、一言で表すとしたらなんですか?
井本 単に良い。
ーー単に良い。
井本 ハバーサックの最大の特徴ですね。いろいろ語れるところはあるけど、単に良い。もう、そこに尽きます。
ーーいくら述語を集めてもそれ自体には至らない。
井本 そう。しかも、服が長持ちするんですよね。それがまた、お客さんのブランドへの信頼につながっているんだと思います。だから「あれ良かったよ〜」という声は多い。
ーーそれはセレクトショップ冥利に尽きますね。
井本 ほんとそう、すごくうれしいです。だから、うちでセレクトする一つの基準を担っているのがハバーサックです。
ーーお店一つを動かしてしまうブランド……。
井本 だからうちのお客さん、ハバーサックの直営店によく行くんですよ。しかも、そこで買った服をわざわざ自慢しに来たりして(笑)
ーーはい(笑)
井本 あとは、直営店の人と飲みに行ったりとか、挙句の果てにハバーサックの直営店で働き出した方もいらっしゃる(笑)
ーーすごい。それはどうなんでしょう、お店としてちょっと寂しい気持ちもあるんですか?
井本 いや、もうこの際いいや!って。みんなで楽しければいいでしょ!って。
ーーあ、そうですか。素敵ですね。
なんかね、変なところでこだわってもね、というのはありますね。
ーーでも、それだけハバーサックが選ばれるなら「ハバーサックをもっと仕入れよう!」とはならないんですか?
井本 やっぱりね、数の問題じゃないんですよ。あくまでうちに合うかどうかが大事なんです。ハバーサックの世界観はやっぱり直営店が一番伝わりますから。あんなに濃い服ばかり並べるのはうちじゃできない。でも、うちっぽいものはとことんやります。

仲町台「Euphonica」の隠れヒット品番

HAVERSACK ATTIRE/ミノテックスフィッシュテールコート
オーソドックスなバルマカーンコートにM51フィールドパーカのディテールを掛け合わせた、Aラインのバルマカーンコート。生地に使用されたミノテックスは帝人フロンティア社が手掛けるソロテックス素材を用いた生地の一種。経年変化しづらい撥水性を持たせた生地で、軽く、柔らかく、透湿性にも優れている(¥47,300)。
Info
Euphonica
神奈川県横浜市都筑区仲町台1丁目33−19ピアッツァ仲町台 A
12:00-20:00(定休.水)
03-6890-8888