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銀座とファッションとランニングの関係性。アンルートだからこそできたこと。
銀座という街でファッションとランニングと一見かけ離れているような2つを上手く組み合わせて提案しているセレクトショップ『EN ROUTE(アンルート)』。話題に上がることが多いショップなので、自然と知っていると思いがちですが、実はアンルートには知られざる一面も多くあります。
今回はそんな知っているようで知らないアンルートについて、同店のショッププレスである川崎さんに聞いてきました。銀座との関係、ランニングとファッションの共存、そしてアンルートが存在する意味。これを読んだ後はきっとお店に行ってみたくなるはず。長文ですが、ぜひご覧ください。
スポーツしている人が単純にかっこいい
アンルートもオープンしてから、そろそろ2年経ちます。オープン時期はちょうどGYAKUSOUの人気が出ていたり、雑誌「走るひと」ができたりと、ランニングのムーブメントが出てきた前後の頃だったと記憶しているのですが、アンルートはどういった経緯で立ち上がったんでしょうか?
アンルートのオープンは、2014年の9月からなので、もう2年といったところですね。元々、我々のディレクターである沼田が社内でプレゼンをして始まったんです。沼田は当時、別のブランドのディレクターをやっていまして、その時にブランドとして、とあるスポーツイベントに協賛をしておりまして。
そこに参加していく上でやっぱり身体を鍛えているというか、スポーツしている人が単純にかっこいいと思ったそうです。やっぱり身につけるものをカッコよくする前に、自分たちの身体の中もカッコよくしていくのが求められているところで、お客様の気分でもあったのかなと。そこで、都会という中で何ができるのかと考えた時にランニングという答えでフィックスして。
ちょうど20〜30年前くらいに某雑誌でもランニング特集をやっていたり、トレンドもそうですが、そういうところはスパイラルになっているのかなと。その流れで東京オリンピックが決まって、弊社としても足りないところ、やっていないところだったので、こういった形で店にしたというのがディレクターの経緯ですね。
ファッション好きに向けて、ランニングウェアだけを売るという業態のお店は同時期にいくつかあったと思うんですが、銀座でランステーションも併設しているアンルートさんはやっぱり今思っても特別な位置にいるなと感じます。やはり、そこには銀座という土地柄が関係しているように思うのですが、あえて銀座に出店した理由は何だったんでしょうか?
これはオープンしてから分かったことでもあるんですが、やっぱり銀座って東京の中心地であり、カルチャーが詰まっているところなんですよね。例えば、お店からちょっと歩いたところに老舗の和菓子屋さんや、誰しも知っているような出版社があったり、少し行くと築地もあって。昔からの東京が残っているエリアなんです。逆に、東京タワーや東京駅など観光地としての一面もあって。このエリアは半径5キロ以内で今の東京が味わえる場所だと思うんです。
ランニングという面でも、皇居が良い場所というのはもちろん、このエリアは走ると知らないところや、自分のライフスタイルにプラスになることがちゃんと発見できる場所なんです。だから、銀座という土地に一店舗目を出したというのはありますね。
アンルートの皆さんは元からランニングが好きな人を集めていたという感じですか?
ここに来てから始めたスタッフもいますね。でも、どちらかというと元々スポーツを楽しんでいて、ファッションも好きということで集まった人が多い気はします。
川崎さんも腰を悪くしてからランニングを始めたんですよね。
そうです。今のようにランニングされてる方が多い時期ではなかったんですけど、私自身も先輩などのお誘いで東京のランニングチームに参加させていただいていました。ランニングっていうと部活のイメージが強かったのですが、コミュニーケーションの一つになっているというのが面白かったんです。一人で走るのも気持ち良くて楽しいんですけど、グループランでの人と人とのコミュニーケーションが楽しかったんですね。やっぱり、スポーツしてる方が仲良くなるって早いじゃないですか?
グループランにはいろいろな職種の方もいるので、そういう方と意見交換できる場所でもあるんです。仕事の面でもそうなんですが、すごいプラスになることばっかりで。自分の身体のためにも走るんですけど、最終的には本当にコミュニケーションの場として参加するようになりました。
アンルートのお客様も最初は自分のために走られるのですが、途中からはどちらかというとそこに集まって、いつものメンバーみたいな方々と会話をしながら、ゆっくり東京の街を走るというのがメインになってきてるんじゃないかなと思います。
アンルートのお客様は最初からランニングが好きな方が多かったんですか?
ランニングカテゴリーに関しては最初はランニングが好きな方が多かったです。ただ、やっぱりムーブメントもありつつだったので、ランニングを始めたいお客様もいらっしゃいますし、たまに会社の運動会が復活したからと言われる方もいらっしゃいます。やっぱり企業様もランニングという一番手軽なスポーツをコミュニーケーションと捉えているのかなと。銀座でもたまに上司と部下で夜にランニングしている姿を見かけます。その後、一杯飲んで帰るとか、そういう一種のコミュニケーションになってるのかなと感じていますね。
あと、ランニングを始めたくて専門店に行くと、シューズを選ぶときに「1キロ何分で走りますか?」などと聞かれるんですね。でも、正直分からないですよね。競技としてのランニングだから、走ってビールが美味しく飲めればいいくらいに思っている人にとってはマニアックすぎるんです。我々の店はどちらかというとスタイリング提案をさせて頂いているので、もちろん専門的な知識は持ってるんですけど、プラスアルファでコーディネートをこう組むとカッコいいですという接客をしています。だから、軽くランニングを始めたいと思っているニーズのお客様がうちでは増えていますね。
僕も4〜5年前にランニングをやっていたんですが、ダサい格好じゃ恥ずかしいなという気持ちがありました。ジムならまだ室内だからいいですが、ランニングは外だから少しくらいカッコつけたいという気持ちがあるんですよね。でも、当時はそれこそGYAKUSOUとかじゃないと満足できるウェアはなかったし、専門店もうーんという感じで。アンルートって、それこそファッション好きでランニングしたいという人には打ってつけだと思います。
やっぱり今はお客様はすごい経済的にも考えてらっしゃるお客様が多いです。ランニングシューズを普段でも履きたいという方も多くて、そういうご要望に対してリアルにご提案できるのはファッションとスポーツを二軸でやってるブランドじゃないと出来ないことで、そうじゃないと説得力がないんですよね。
スポーツ用品店のスタッフに「これ普段着でも合いますよ」とか言われても、正直どう合うのか分からないじゃないですか?我々としてはそこもちゃんとピックアップしてご提案させていただくので、そう言ったお客様とかは我々の店で何かを見つけていただくというのが多いですね。
スポーツウェアをタウンユースに落とし込むのは、アンルートだからこそできること
逆にランニングしない人にとっては、アンルートって良い意味で普通のセレクトショップとして見られていますよね?個人的にはそういうところがすごく上手いなと思っています。
昔の話になるんですが、うちのディレクターはセレクトショップの原点はそこだったと言うんですね。例えば、インコテックスとかのグレーのスラックスにスタンスミス合わせたのって最初はセレクトショップの販売員って言われてるんです。今までクロージングはクロージング、スポーツウェアはスポーツウェアをやっていたのをミックスさせたり、スタイリングを提案してきたのは諸先輩方で、それがセレクトショップの原点であり、セレクトショップでしか出来ないことだと思います。我々もやっぱりアイテムは変われど、リアルに使いやすいスポーツウェアをタウンユースに落とし込むのは、アンルートだからこそできるのではないかなと日々ご提案させていただいておりますね。
アンルートはオリジナルもセレクトも都会的な印象を受けますが、そこにも理由があるんでしょうか?
ものづくりとバイイングの視点に関しては毎シーズン、ディレクターのテーマに紐付いてはいるのですが、いわゆる東京らしさ、都会の街でいかに過ごすかというのはメインテーマですね。あとは、機能的というところ。アンルートで固めるのも良いのですが、他のベーシックアイテムなど、我々がリスペクトしてるものも多いので、そう言ったアイテムとミックスしやすいように色の提案をしたりしています。要は差し色がないとか、ベーシックなカラーのみというのはそこが狙いだったりしていて、そこがものづくりの基準であったり、バイイング基準ではありますね。
だから、ベーシックカラー、特に黒やベージュ、白などのイメージが強いんですね。
派手な色って作ったことがないんですよね。あと柄物もほとんどやったことがないです。単品で柄物はすごいカッコ良いですし、もちろんんトレンド要素もあるのでいいのですが、コーディネート軸で考えるとやっぱりどこかで規制が入っちゃったりするので。やっぱりクリーンでシンプルモードなコンテンポラリーウェアというのは崩さずに、そのワードを追求していくと今のプロダクトになるのかなと思います。
前から思っていたのですが、店内の内装もすごく素敵です。洋服との相性も良いですし、ランニングとのギャップも良い。
ディレクターが海外出張によく行っていて、海外によくある天高の店が日本にあまりないなと思っていたそうです。日本の店は、基本的にはウィンドウと呼ばれる部屋があって、そこにマネキンを置くんですよね。
でも、天高でガラス張りにすると店全体が見えるので、マネキンをおけばウィンドウ代わりになるという理由から、当時は弊社ではお取引がなかったのですが、スキーマ建築の長坂様に内装をお願いしました。なので、あまりオペレーション云々ではなくて店、というような感覚ですね。ストックルームも見えてますし。
このまま時間が経ってもカッコよくなりそうですよね。空間も広いし、現代的だけど飽きない。最初お洒落に感じても見慣れるうちに…というお店も多いですが、アンルートは来る度に良いなと思います。
働いていても心地良いですね。他のお店では緊張感があって、経ってるスタッフも疲れてしまうなんてところもあるのですが、ここは我々もほどよい緊張感で落ち着きますし、お客様もゆっくり買い物できる。やっぱり、それはこの長坂さんのデザインがあるからだと思いますね。
一気に東京を味わえる場所、銀座
改めてランニングの話を伺いたいと思います。オープンから2年、ランニング目的で来るお客様は増えましたか?
この2年間でランニングを始めたお客様も多いですし、結構増えたと思います。割合で言うと、8:2くらいでファッション目的のお客様が多くはあるのですが、ランニングカテゴリについてはここに来ると何かあると思っていただけているみたいです。リピーターのお客様も多いですね。
ランニングとファッションを提案するというアンルートにいて、良かったことはありますか?
お客様のためにアンルートという施設を作ったのですが、我々にとっても単純に銀座の街なんて走ったことがなかったのですごく新鮮でした。やっぱり走ってみると、銀座にはカルチャーがすごい根付いていることが分かったり、ローカルなお店を発見できたりするんですよね。都会で生活していると車か電車で移動することが多いと思いますが、走るといつもと違う風景が見えるのが面白いです。
あと、夜の有楽町とか新橋とか、サラリーマンの方が飲んでるんですけど、その中を颯爽と走ると気持ち良いです(笑)。東京のローカルなところで飲んでいるサラリーマンから、東京タワーまでゴチャゴチャした東京を見つつクリーンでかっこいい東京も見られる。一気に東京を味わえる場所だなと感じてますね。
楽しそうですね。ランニングに興味が湧いてきました(笑)。定期的に走る道も変えたりしているんでしょうか?
もちろんです。皇居ランや公園もいいんですけど、街の方が僕は好きです。僕は内臓が弱くて、お腹が痛くなるんですよね(笑)。だから、ランニングする上でトイレも重要になっていて、街ならコンビニにすぐに行けて便利なんです。
あと、ランニングするとき、鍵とお金とかを持っていくんですよね。ただ、お札を入れていくと汗で濡れてしまって、自動販売機に入らなくて。かと言って、小銭にするとジャラジャラとうるさいんです。そうすると、やっぱりスイカとかパスモの電子マネーになるんですが、それが使えるのはレールサイドの自販機で。あと、レールサイドはコンビニも多いので、そういう意味でも街で走るのが多いですね(笑)。
単純にランニングの質問になってしまうのですが、ランニングは手ぶらでやるんですか?それとも小さいバッグを持っていきます?
夏はバッグに水を入れて持っていくメンバーが多いですね。僕は、ほとんど何も持ちたくないので水もそこに行って買うので手ぶらです。ちなみに、僕はランニング中に音楽も聞かないんですよ。音のBPMにスピードを合わせちゃうので、チルアウトなんか聞いたらほぼ歩きになってしまって(笑)。
だから、絶対音は聞かないですね。自分のペースで走ります。携帯を見てキロ何分で走ってるか確認して、あとは鍵とスイカを入れて走ってます。他の人と比べるとちょっと特殊ですね。でも何も持たないのも縛られなくて気持ちいいですよ。でも、アプリで距離を確認するのは良いと思います。仲間内でシェアもできるので。
僕もランニングしていたときはNIKE+を使っていたんですが、シェアする相手がいなくて寂しかったです…(笑)。コミュニティに属すると、シェアする相手ができるので面白そうですね。
シェアもそうですが、実はグループランする方が楽なんです。同じ6キロを一人で走るより、5人とかで話しながら走る方が楽。ゆっくりなペースでも話しながらだと呼吸が整うから楽になるんですよね。ちなみに、僕は出張先でも朝ランニングしたりしていますよ(笑)。
お酒好きだと朝のランニングはきつくないですか?(笑)
かなりきついです(笑)。一回汗出して抜くって作業が入りますね。前の部署は出張が多かったのでよくやってました。ただ、ランニングの大会とは全く興味がなくて。本当にこんなブランドにいるのにいいのかなと思うんですけど、日々健康をキープしつつ、体型維持だったり身体に良ければそれでいいのかなと。
大会に出るとなるともっとストイックさが必要になったり、生活に入り込んできますよね。
そうなんです。例えば、友達との飲みがなくなったりとか、今月100キロ目標にしてて、あと10キロなのに2日しかないとかで今日飲みに行けないわ、っていうのも嫌なので。自分のタイミングで好きに走りたいとなると縛られると続かないので、僕は何も気にぜずに走りたい時には走って、という感じですね。
その時のギアで行くとうちのセレクトはちょうどいいかなと。ハイスペックすぎないし、でもパッと走る時にちょうどいいアイテムがある程度の選択肢があってピックできるというのがうちのブランドの強みかなと思います。
置いてあるランニングウェアやシューズも色味が鮮やかで豊富ですよね。
選択肢もすごい多いんですけど、多分他社さまのセレクトと比べると実は地味なものを選んでいると思います。スタイリング軸で提案しているので、足元の方がトップスの色を変えやすかったりするんですよね。シューズは年中履けるものばかりですが、やっぱり日本は四季があるので上と下は変えないといけない。
夏はTシャツ一枚なのが冬になるとその上にアウターを着る。となるとシーズンによって変えなければ必然的にいけないものなのが服なので、それに対してコーディネートを組みやすい靴って何となるとシックなカラーリングになるんですよね。もちろん発色の良いものもリクエストしているのでピックアップはしてますけど、基本はシックなカラーリングが多いです。
皆さん、シューズもスタイリングに合わせて数足お持ちなんですか?
僕も3足ぐらいは持っていますね。うちの担当でもしっかりランニングしてるものは数足をその日の目的毎に、今日は短く早くとか、今日はゆっくりとかに合わせてストックしてますね。
そういうのも幅が広がっておもしろいですね。気に入って買った一足を履きつぶすより、スタイリングと目的別に複数持っておくと長続きしそうです。
各社ともランニングシューズがすごいハイスペックになってきて、ソールの種類も多種多様にあるので、自分のランニングをどういう風に楽しむかによって適正なソールが存在するので、そこで選んでもらうとより楽しくなるかなと思います。
今までアシックスとかミズノが多かったのですが、最近だとロードを各社マーケット捉えています。最近だとホカ オネオネってブランドも元々トレールランのものなんですけど、あちらにあるモデルのように街で走る用のプロダクトが生まれたり、新しいところからいろいろ出てきていますね。
今日は専門店ではなく、ファッションを提案するお店でウェアを買う楽しみを再発見できたように思います。ちなみに、アンルートでは働いているスタッフさん全てがランニングについて応えてくれんですよね。一見、ランニングしてそうに見えない方が詳しく教えてくれるという面白い体験をできる場だなとも思いました。
単純にコーディネートがイケてるとか、このコーディネートにこの靴の方が良いですよ。とか、そういう提案をさせて頂けるのがうちの強みだと自負しているので、ランニングしている人はもちろん、これから始めたい人もぜひ来てみてください。
EN ROUTE GINZA
都会でのリアルな生活を志向しながらも、それとは真逆に位置するモードとの程よい距離感を保っているセレクトショップ。街に馴染む、程よくモードな洋服に加え、ランニングというもう一つの軸でもって“ファッションとスポーツを同じ感覚で楽しむ”を提案している。
住所:東京都中央区銀座 3-10-6 1F 11:00〜20:00
お問い合わせ:03-3541-9020