FEATURE
未来のトレンドと“味”な服。高円寺『ROIR』で見た、奥深き古着の世界。

ECWCSのLevel7や、カーハートのダック地のパーカー、そしてリーバイスのシルバータブ。今挙げたトレンドアイテムは主に古着として売られているもの。つまり、古着屋には流行の種が眠っているということです。
しかし、中には先見性だけが見所ではないと気づかされるお店も。例えば、高円寺の『ROIR(ロアール)』。ずらりと並ぶ服は個性的で、見るほどに引きこまれる魅力があります。数十年前に作られたものでも新鮮に見えたり、クローゼットに昔からある服のような安心感を覚えたり。そして何よりあふれ出ているのが、オーナー・小山さんの服への好奇心。奥深い古着について、もっと知りたい。そんな思いで、今回は小山さんにお話を伺いました。
Text:koki yamanashi
Photo:masaru kato



一度に約500kg。想像を絶する買い付け事情
―古着の話に入る前に、まず気になるのが『ロアール』という店名です。聞きなれない単語ですが、由来はなんですか?
小山直さん(以下、小山):アメリカにあるレコードのレーベル名から取りました。僕の好きなバッド・ブレインズというパンクバンドがアルバムを出していまして。だからあまり深い意味はないんです(笑)。

『ROIR』オーナー/小山 直さん
1979年生まれ。20年以上前から高円寺の古着屋でスタッフとして働く。その後独立し、2004年に『ロアール』をスタート。現在は高円寺内にあるレディース古着のお店『i nou』と『Anthony』も経営。古着屋の前はパン屋で働いていたという意外な経歴も。
―調べてみると、70年代頃に活動していたバンドなのですね。『ロアール』はレジの前にカセットテープが置いてあったりと、音楽的な趣味も至る所に感じられます。
小山:オープンから17年経った今でもカセットが好きです。アメリカへ買い付けに行く度にいろいろ買ってしまいますね


―カセットも現地で仕入れているとは。ところで、古着は一度にどれくらいの量を買い付けられるのですか?
小山:だいたい500kgくらいです。『ロアール』以外にも『i nou』と『Anthony』というお店も経営しているので、3店舗分の量にはなりますが。買い付けの時は10日から2週間くらいの間、朝の5時から10時くらいまでスリフト(※)を巡っています。ずらっと並んだ服と一日中格闘していますよ。
※寄付された古着や家具を格安で販売する店舗。
―500kg分の服をセレクト! 想像もできない作業です。買い付けの際に意識されていることはありますか?
小山:個性的だけど、翌年にも違和感なく着られるようなデザインを意識しています。ただ、これが結構難しい。試着をしながら選ぶことが多いですね。即決したものに限って裏面に変なプリントが入っていたりして、「失敗した!」となるので(笑)。

今気になる服、今売れてる服
―最近の買い付けで特に探しているアイテムはありますか?
小山: 会社名のロゴが入った、いわゆる“企業モノ”のアイテムですね。もともとセブンアップやコカ・コーラなどのレトロなロゴが好きだったのですが、この頃はアマゾンやアップルのような、年代の浅い企業モノもいいなと。店頭でも結構人気なんですよ。

―ファッションアイテムとして作られていない服、というのが面白いです。
小山:それを日本人の子があえてファッションとして着るって、なんだかいいですよね。

―『ロアール』は今年で17 年目です。高円寺の古着屋の中でも長い歴史がありますが、提案した服で、後からトレンドになったものはありますか?
小山:少し前だと、ダメージががっつり入った“ボロ”のアイテムがそうですね。僕自身もハマっていましたし、のちに雑誌の『CHOKiCHOKi』が火付け役でブームになりました。あと最近では、トレンドと言えるかわかりませんが、スーツのセットアップがそうですね。比較的前から扱っているのですが、特別な日以外にも私服として着る人が増えてきました。ようやく市民権を得たなと思いますね。
―セットアップはまさしく最近のトレンドアイテムです。古着だと着こなすのが難しいと思うのですが、何を重視して仕入れていますか?
小山:サイズが大きいと肩幅も広くなりすぎてしまうので、できるだけ小さめのサイズを仕入れています。時期でいうと、70年代のポリエステル素材のものや、80年代のダブル仕様のものが人気です。

無難を避ければもっと面白い。古着の楽しみ方
―古着は新品とは違い、サイズ感やデザインもまちまちです。選び方についてアドバイスありますか?
小山:もちろん自由です。ただ、最近は『このモデルが着た服』のような、特定の商品ばかり試着されることが多くて。それ自体は悪いことではないのですが、ほかのアイテムもたくさん着てもらえると、より楽しめるのかなと。
―ブランドやジャンルではなく、服そのものを見てほしいと。

小山:……直感でいいと思えば、流行りの服でなくても着てほしいです。何を着るかはもちろんですが、誰がどうやって着るかも大事ですから。その人らしい着こなしができていれば、ヘンテコな服でも成立するのが古着の魅力ではないかと。無難ではない服にぜひ挑戦してほしいですね。
ロアールで見つけた、“味”な古着たち

ここからは、『ロアール』に並ぶ服の中からおすすめの商品を紹介してもらいます。謎の柄や用途不明なディテール、何かを伝えるメッセージ……。どれも現行品にはないアクの強さながら、眺めているといつの間にか愛着が湧いてきます。“一期一会の服”か、はたまた“未来のトレンドアイテム”か、どう捉えるかはあなた次第。いずれにせよ、その個性にピンと来たなら『ロアール』へ!

小山:まずは胸元にメッセージが書かれたハーフジップのフリースジャケット。なんとも言えない、説明できない良さがありますね。企業名などではなく、『view』という単語のチョイスやフォントも洒落ています。これがあるかないかで長く使えるかどうか変わってくるのでは? と思っています。

小山:次はこのコート。元々は前開きだったものを、誰かがプルオーバーにリメイクしたんでしょう。しかも裾の部分はバッグか何かの生地に切り替えられている。一般人が手を加えたアイテムはユニークなものが多いので惹かれてしまいます。

小山:このジャケットも面白いですね。レザー素材で、かつ迷彩柄なんです。90年代頃の服なのですが、当時でも珍しいデザインかと。今の時代には小さすぎる携帯用のポケットや、胸元についた極小のリフレクターなど、見るほどに新しい発見があります。

小山:森と鳥が描かれたセーター。基本的にこの手の総柄セーターはコットンかアクリルが多いのですが、ウール素材が使われているのが珍しいですね。案外ストリートファッションとも相性がいいかと。キレイなスラックスやデニムなんかと合わせるのはいかがでしょう? 反対に、チノパンはTHE・おじさんになってしまうので注意しましょう(笑)。

小山:最後はバブーシュ。つま先の尖ったデザインは日本だと見慣れないですが、実は本場のモロッコではこの形をはくのが正装なんです。よくあるスリッパタイプではなく、アウトソールが付いているところも現地の仕様。ちなみにこれはアメリカではなく、モロッコへ旅行した際に買ったものです。プライベートで行っても結局買い付けをしてしまうのは職業病ですね(笑)。

ROIR
住所:東京都杉並区高円寺南3-46-5 後藤ビル203
営業時間:13:00〜20:00
Tel:03-3314-2750
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