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お店のプレイリスト|仲町台Euphonica vol.3「素晴らしき1960~70代邦楽の世界」

国内外から上質なアイテムをセレクトする仲町台町の“洋品店”「Euphonica」のオーナー井本さんが、その時々の気分に合わせてプレイリストを公開。90~00年代の音楽体験を語ってもらった際には同氏のマニアックな一面も垣間見えましたが、はたしていま興味のある音楽は? vol.3は「素晴らしき1960~70代邦楽の世界」。

Euphonicaオーナー/井本征志
「ファッションの世界では90年代ブーム、そして音楽でも70~80年代作品の一部がシティポップと呼ばれお洒落なジャンルとして人気な昨今ですから、ここはおじさんとしてヤング諸氏にもっと古い邦楽の世界を伝えねばと奮い立ちました。ゆえに70年代の曲でも、すでに今人気の高いシティポップ的な、夜の摩天楼や首都高速を彷彿させるものは、当リストから外しています。今回まとめたあたりの楽曲は90年代に再評価され人気を博しましたので、当時の若者、つまり今の中高年には比較的お馴染みの有名曲が多く、若干面白みに欠けるかもしれません。が、あくまで若い方に向けてということで、聴く人を選ぶようなマニア好みのラインナップにはしませんでした。このプレイリストがどなたかにとって新しい世界の入り口になれば幸いです」
1. 山崎ハコ / さすらい(1975)
「冒頭から心をかき乱される声、圧倒的表現力です。しかも当時まだ山崎ハコは横浜学園高校に通う少女でした。なんということでしょう。いきなり老成しすぎですね」
2.ザ・ゴールデン・カップス / LSDブルース(1968)
「年末の企画でもご紹介した、横浜の誇る不滅のクールネス、ザ・ゴールデン・カップス。こちらは作曲家による提供でも洋楽のカバーでもなく、彼ら自身の手によるオリジナル曲です」
3.ティン・パン・アレー / ソバカスのある少女(1975)
「ティン・パン・アレーは、はっぴいえんど解散後、細野晴臣、鈴木茂が林立夫、松任谷正隆らと結成した、プロデューサー集団的バンドです。鈴木茂と南佳孝ふたりが味わい深く歌うこの佳曲では、矢野顕子がエレピで参加しています」
4.ブレッド&バター / ピンク・シャドウ(1974)
「茅ヶ崎といえば…サザン? 加山雄三? それはもちろんですが、今でも現役で活躍する兄弟デュオ、ブレッド&バターを忘れちゃいけません。この『ピンク・シャドウ』は初期の代表曲で、先に挙げたティン・パンの面々をはじめ、バックバンドに当時気鋭のミュージシャンをズラリと揃え、独自のサウンドを聴かせてくれます」
5.かまやつひろし / ゴロワーズを吸ったことがあるかい(1975)
「かのタワー・オブ・パワーの濃厚な演奏をバックに、ムッシュがやりたい放題やり尽くした外連味溢れる名曲。あらためて聴くと、フランスのたばこを題材にした歌なのにアメリカンファンクな音というのが面白いですね」
6.荒井由実 / 曇り空(1973)
「言わずと知れたユーミン。荒井由実時代はまさに天才そのもので、もうどれを聴いても最高なんですが、そのなかで個人的に一番好きなのはこの曲です。音だけでこんなにも『曇り空』を表現できるなんて」
7.小坂忠 / ほうろう(1975)
「現在は牧師としても活躍する小坂忠。60~70年代の日本のロック史を語るうえで最重要人物のひとりです。この曲が収められた『HORO』は70年代の和製R&Bを代表する一枚で、ここでもまたティン・パン・アレーがレコーディングメンバーとして参加しています」
8.浅川マキ / 夜が明けたら(1969)
「寺山修司に見い出され、新宿のアンダーグランドシアター蠍座から世に出た浅川マキ。その徹底した美意識は、死後10年以上たった現在でもなお新宿そのものを表しているかのようです」
9.鈴木茂 / 砂の女(1975)
「のっけから鈴木茂ならではのギターに心を鷲掴みにされる、グルーヴ感溢れた一曲。単身アメリカに乗り込み、当時の西海岸シーンを代表する超豪華ミュージシャンたちをバックに従え『BAND WAGON』(この曲が収録されているアルバム)を出したとき、まだ鈴木茂は24歳でした。この時代は早熟の天才の宝庫です」
10.西岡たかし / 満員の木(1973)
「フォークグループ五つの赤い風船解散後、当時では珍しく一人で多重録音を行い作り上げた楽曲です。フォークソングの枠を超え、聴く者を実に不思議な感覚に包み込んでくれます。Spotifyにはありませんが、この西岡たかしが参加している吐痙唾舐汰伽藍沙箱(バンド名です…)も是非聴いてみてください」
11.赤い鳥 / 赤い花 白い花(1971)
「『翼をください』『竹田の子守歌』があまりにも有名なため、赤い鳥の作品群の中ではやや陰に隠れていますが、実に聴きごたえのある佳曲です。数年前、アニメの『どろろ』でも使われていましたね。」
12.五輪真弓 / 少女(1972)
「五輪真弓初期作品の素晴らしさを知ったのはつい昨年のことで、〈K.ITO〉デザイナーの井藤さんから教えていただきました。本作はデビュー盤であるにもかかわらずLA録音され、デモを聴いて感銘を受けたというキャロル・キングがピアノを弾いているなど、演奏陣の豪華さにも驚くばかりです」
13.ガロ / 暗い部屋(1972)
「ガロはもともと高いギターテクニックや複雑なコーラスワークを駆使する玄人好みの実力派でしたが、レコード会社による大衆化路線が成功してしまい、その結果破滅してしまった不遇のグループです。CSN&Yを彷彿させるこの曲では、彼らならではの変則チューニングや組曲のような展開が存分に味わえます」
14.岡林信康 / 私たちの望むものは(1970)
「岡林信康は今こそ聴かれるべきミュージシャンだと思いますね。コロナやら何やらで閉塞の極みにあるこの時代、彼のメッセージは深く突き刺さります」