FASHION
【Interview -ファッション業界で働く- 】HOEK 大井美代(前編)
ファッション好きなら一度は覗いてみたい、ファッション業界。【Interview -ファッション業界で働く-】はファッション業界で働く方々に、ファッションに目覚めたきっかけや今の仕事に就いた経緯、お仕事の魅力などを伺うインタビュー連載です。第4回は HOEK 大井美代さんに登場していただきます。
キャットストリートを曲がり、蔦が絡まるヴィンテージ感漂うマンションの4階。優しく光が差し込む小さな一室に、夫婦のこだわりがぎゅっと詰まったセレクトショップがあります。
終始笑顔でインタビューに答えてくれた「HOEK」の美代さんは、現在2人目のお子さんを妊娠中。買い付けや事務作業、最近オープンしたオンラインサイトの管理やSNSの更新を担当しているそう。
Interview
— まず始めに、ファッションに目覚めたきっかけは何ですか?
ファッションは物心ついたときから好きでした。女の子ってある程度自我が芽生えたら自分で服を選び始めますよね。雑誌「CUTiE」や「Zipper」などの原宿系ファッションがちょうど流行っていた高校時代は、いかに可愛く派手にするかにこだわり、バッグに自作した派手なチャームを付けたり、お金がない中でも自分らしくファッションを楽しんでいました。
人とのコミュニケーションの取り方や、自己表現の仕方に悩んでいた思春期だったんですが、そんな中一番自分を表現出来ると思えたのがファッションでした。その当時はとにかく個性的なファッションに目覚めていた時期だったのもあり、もっと世の中にないものを創り出したいという気持ちが強くなり、雑誌で見て憧れていた文化服装学院に進みたいと思うようになりました。
しかし、今思うとその当時の私の動機が浅かったのでしょう、そこで両親の猛反対が。話し合ってひとまず短大に進学し、それでも諦められなかったらという約束のもと卒業後に文化の夜間へ通わせてもらうことになったんです。
文化服装学院では、週3でデザインやパターンなど一連の流れを学びましたが、短大でも専攻していたのが衣食住に関する生活環境学という分野で、結果的に今で言うライフスタイル全般を総合して考えるきっかけになったように思えます。
— 文化を卒業した後、どのようなキャリアを歩むことに?
すぐには職に就かず友人の手伝いなどをして1年間過ごしました。今が楽しければいいという感じで。でもさすがにこのままじゃいけないなと思い、就職活動を始めたのが25歳の時。あまり何も考えず試験を受けていたので落ち続ける日々でしたが、その時に見つけたのが最初に入ることになった、ユナイテッドアローズの販売員募集です。
今でこそライフスタイルとファッションの繋がりは定番になっていますが、アローズは当時からライフスタイルをしっかりと提案していました。私も衣食住の全てを大事にしていたのでそこがピンときたんです。今まで何をやってきたか、何をやりたいか、自分の気持ちを深くまで掘り出して整理したので、落ちないだろうと自信が持てるくらいの何かが見えて、その結果採用して頂く事ができました。
— シンプルだけども上質なライフスタイルを提案するHOEKの姿勢につながるものは、ファッションのキャリアの始めから根付いていたのですね。販売員時代では何を学びましたか?
アローズでは基本的なマナーや接客の心構えを一から学ぶことができて、あれがなかったら今はないと思うくらい自分の基礎になっています。上司から教えられるだけではなく、お客様のためにできる事を自分で常に考え、客観的に物事を見る力がつきました。
バイイングや企画をやりたいなと思っていたけれど、販売の奥深さも体験し、とにかく販売の勉強に集中しました。アローズ自体が販売員をステップとしてではなく一つの大事な役職と考えていて、海外では販売員という歴としたポジションがあって50、60代になっても誇りを持って続けていくということを教わったのもその時です。
— 販売員時代に何か思い入れのあるエピソードはありますか?
「娘が結婚式に行くからこのドレスをどうしても着せたいんだけど、サイズどうにかなりませんか?」というお客様の問い合わせに応えるために、上司に相談し、商品部と掛け合って特別に用尺分の生地、パーツを販売させてもらったこともありました。商品部には迷惑をかけたけれど、お客様はその分喜んでくれた良い経験でした。接客をしっかりしてお客様と密にコミュニケーションを取る分、イレギュラー対応が多かったですね(笑)
そんな感じでロング接客になることが多かったので、密になるお客様も少なくなかったんですけれど、何度かクレームをお受けする事もありました。未熟な自分が直接の原因のこともあったので、中には相当落込みながらのこともありましたが、とにかくきちんと誠意をもって真剣に対応することを大事にしていました。先輩方のフォローもすばらしい環境だったのもあり、結果的に顧客様になってくれる方もいらっしゃったりして、中でも感謝の手紙をもらった時のことは忘れられない経験となりました。何でもそうですが、誤魔化さず、常に真摯に向き合うことが大切なんだなと身を以て経験させてもらいました。
— 横流しの接客では感じられない濃密な購買体験がブランド、個人のファンに繋がるんですね。販売員から次のステップを考え始めたのはいつ頃ですか?
1年半くらい経った時に衣食住を大切にする自分にとって販売員の不規則な生活では理想の生活バランスが取れないなと感じ始めて、次のステップに進もうと決意しました。
辞めてからは知人の店を手伝ったりした後、パタンナーの友人が設立した会社でレディースブランドのデザイナーとして働き始めました。パタンナー2人と私の3人しかいなかったので、デザインに加えて私が生産管理、プレスまでやることに。一応デザインは学んでいたものの実践したことはなく、未経験のことばかりでドタバタでしたが、そこには3シーズンほど在籍しました。
— まさかの販売員からデザイナーへの転身。文化時代に学んだことと人脈が導いてくれたんですね。あれ、ご主人がまだ登場しませんが…?
主人との出会いはアローズ時代です。主人の方が私より先に退職したのですが、同じ職場の先輩でした。当時、ある上司のもと二人でウィンドウディスプレイを担当していたのですが、好きなものや美的感覚が似ているなと感じて、おまけにお互い接客も好きでしたし、これはふたりでならきっと面白いお店ができるとなんとなく思ったんです。
意見が食い違っても「なるほど、いいね」と思いあえる関係ですね。夫婦共にモノに対してのこだわりがとても強いので、お互い勝手に買ったりはあまりなくて、買おうとしているものは「どう」って聞き合っています。ダメ出ししあったりも(笑)
次回はまだまだ続くセレクトショップ開業への道のりと、HOEKが目指すお店について深掘りしていきます。
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Text. Azu Satoh