FASHION
写真家・森栄喜が詩で挑む新たな表現『A Poet : We See a Rainbow』
パーソナルな関係や自身が体感する社会問題を、写真という形で公に投げかけてきた写真家・森栄喜が、今年も池袋を中心に開催される日本最大級の国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー(以下F/T)」に参加する。二回目となる今回は自身が慣れ親しむ写真から離れ、『A Poet : We See a Rainbow』(ア・ポエット:ウィー・シー・ア・レインボー)と題し、「詩」の朗読という表現方法を通してLGBTをはじめとする多様性のあり方を問いかけていく。
都会の真ん中で読み上げられる「詩」、偶然にも見て、聞いてしまう人々。街にその声が響くとき、誰かの中の“多様性”が小さな鈴を鳴らすかもしれない。
詩のルーツは、多様性に触れた経験
写真を中心に活動する彼と「詩」の出会いは20代。留学先のニューヨークでLGBT当事者が参加する朗読会に参加した彼は、政治問題や個人的な内容まで臆さずに自分の考えを他者と共有するその姿に触発されたという。その記憶は、街中で「詩」を朗読するという今作に大きくインスピレーションを与えているようだ。
昨年のF/Tでは『Family Regained: The Picnic』をテーマに、架空の「家族写真」を撮影した。彼自身を含めた3人が赤色の服を身に纏い、池袋の街中を歩きながら出会う人々に、使い捨てカメラで自分たちを撮影してもらうというもの。本当の家族ではない彼らが、他人の手によって「家族かもしれない」不思議な存在として写し出されていった。こうした街全体を巻き込み一期一会の出会いの中で作品が作られていくような手法は、街に流れるタイムリーな空気感の中で社会問題を取り入れながらアートに触れるというF/Tの醍醐味そのものだ。今回の朗読も、まさに一期一会の空間によって作品ができあがっていく。
社会問題への目線という共通点
朗読の衣装デザインは、メッセージ性の強い作品を世に放つ『writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)』デザイナーの山縣良和が担当。「創造性を持って“今”を表現し、心に届ける事を」をコンセプトに創作を続け、戦後の日本や国際問題からインスパイアされたショーを行うなど、同じく自身の表現を通して社会問題を浮き彫りにしてきた。
写真や映像、そしてファッションというそれぞれの表現方法を用いて、社会に対する疑問を真っ向から問いかけてきた共通点をもつ二人のコラボレーションは、私たちの目にどのような化学反応として映るのだろう。
美術館に足を運ぶ必要もなく、ただ歩いているだけで芸術に触れられるこの機会に、日頃見て見ぬ振りしてしまう社会問題について見つめ直してみるのも「文化の秋」の味わい方かもしれない。
『A Poet : We See a Rainbow』
作・演出・出演:森栄喜(朗読、パフォーマンス)
衣裳デザイン:writtenafterwards
上演時間:30分以内(予定)
入場無料
※10月20日のみ要予約。予約はジュンク堂書店池袋本店1階サービスコーナー、もしくは電話にて
TEL 03-5956-6111
日時・会場:
10月20日(土)17:00 / 20:00 ジュンク堂書店池袋本店9階ギャラリースペース
10月21日(日)15:00 南池袋公園サクラテラス ※悪天候中止
10月22日(月)15:30 東京芸術劇場劇場前広場 ※雨天の場合はロワー広場で実施
18:00 東京芸術劇場ロワー広場
HP
森栄喜(写真家)
1976年石川県生まれ。パーソンズ美術大学写真学科卒業。2014年『intimacy』で、第39回木村伊兵衛写真賞を受賞。『tokyo boy alone』(2011)、『Family Regained』(2017)などの作品集のほか、同性婚をテーマにしたパフォーマンス『Wedding Politics』(2013-2016)がある。F/T17では新しい家族の形を提示した映像作品『Family Regained: The Picnic』を池袋西口公園、豊島区庁舎で上映した。
山縣良和(writtenafterwards デザイナー・coconogacco 代表)
2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学を卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年にリトゥンアフターワーズを設立。2008年より東京コレクションに参加。2014年に毎日ファッション大賞特別賞を受賞。2015年には日本人として初めてLVMHプライズのセミファイナリストにも選出された。またファッション表現の研究、学びの場として、2008年より「ここのがっこう」を主宰。