FASHION
四ヶ月前の服が呼び戻す、あの時の私の話《水曜のケセラセラ》
こんにちは、ROBE編集長のAzuです。気まぐれ連載《水曜のケセラセラ》第34回目になりました。前回はファッション業界の未来を担うだろうU29世代のお話でした。今回は服が呼び戻す記憶と、自分との新たな出会いの話をしたいと思います。
服はだいたい展示会で買います
はい、告白します。これだけ服を買いましょう!と言っておきながら、普段あまり服を買いません。ワンシーズン分の洋服の半数(だいたい10着前後)は展示会で頼みます。以前書かせていただいた記事「これ買います!極私的2017年春夏コレクション幕開けの話」では展示会で気になったアイテムを続々紹介していきましたが、実はこの中の7着は実際にオーダーして購入しました。
参考記事:ファッション業界の「展示会」って何?《連載:ファッション業界って何?》
なぜ展示会で買うのか?答えは「買いたいものがあるから」が半分、「買わなければいけないから」が半分。ここで語弊を恐れずにあえて「〜なければいけない」と言い切ったのは、誰に言われたわけでもなく芽生えた、暑苦しい使命があるからです。
服はピクセルじゃない、グラムだ!
決してブランドさんに強要されてとか、お付き合いでとか、そんな薄っぺらい理由で買ったことは一度もありません。純粋に「欲しい!」と思うのと、「日常で着たらどんな見え方をするだろう?」と実験したくなるからです。
私が勝手に感じている使命とは、「まだ世に出ていない素敵な洋服たちを街に連れて行くこと」。ただ写真を撮ってSNSにあげてハイ終わりではなく、洋服は陽の光を浴びて、シワを作りながら、着る人の形に馴染んでいってから初めて、本当の魅力が出るのだと思っています。
そして仮にもファッションメディアをやる身として、肩書きはライターなのか編集者なのかジャーナリストなのかわかりませんが、「その服は本当に着ることができるのか、高いお金を出してまで買う価値があるのか」を、身をもって検証しなければいけません。「買わなければいけない」というのは、ちゃんと日常で着る上で動作的に快適なのか、デザインとして街に溶けこめるのかということを確かめる使命がある、という意味です。
だから私は、気になったブランドや洋服があればできるだけ買って日常生活で着るようにしています。いくらデザインがよくてもスムーズに階段を登れなければ意味がないし、いくら質が良くても着る機会がなければタンスの肥やしになるだけだから。
四ヶ月前の私は何を考えてた?
さて、そうしてオーダーされた服たちがいよいよ私の元に到着するのは、約四ヶ月〜半年後。3月にオーダーした秋服が届き始めるのがちょうど今頃です。
先日しばらく家を空けてから帰宅すると、3着の服が届いていました。時期的にはまだ着ることができない長袖やニットですが、届いた瞬間もう一度試着し直すのが私の癖。
「オーダーした私、天才。作った人、神様。」
毎回そう思います。同じ服を着て何度も喜べるなんて、自分でもバカだなと思うんですが、この理由が最近わかりました。それは、あの時の自分を振り返ることができるからだったんです。
人間なかなか短期間のことは振り返れません。数ヶ月前の気持ちや出来事を思い出すには、何かきっかけとなるコトやモノが必要です。
それが私の場合は服でした。四ヶ月前にオーダーした服が忘れた頃に私の家にやってきた時、あの時感じたドキドキや、こういう格好がしたかったという気分、これが素敵と思った感性がマルッと蘇るのです。
まるでそれは四ヶ月前の自分が仕込んだタイムカプセルのようでもあるし、挑戦状のようでもある。服はただ着て幸せという高揚感だけではなく、少し前の自分を連れ戻して対峙する瞬間を与えてくれます。
これは服をオーダーするという特別な行為だからこそ感じることかもしれませんが、例えば一年目の秋服を出した時、「あの時はどうだったっけ?」と少し思い出す時間を作ってみてください。一年前の自分と向きあって、ファッションの気分や、美しさを感じる心がどう変わっているのか、もしくは自分の中で変わらない軸があるのかを見つけ出す、とても良い機会になります。
text. Azu Satoh