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LIFE & CULTURE

おとぎ話界に “越境レディ” を。〈ペネロピ〉【洒脱なレディ論】

いつだって、おとぎ話はハッピーエンドだ。

逆境に立ちひどい仕打ちを受けるお姫様には、かならず白馬の王子様が現れる。苦労は報われ王子様に見初められ、キスのひとつで永遠の眠りからだって目を覚ます。幸せむんむんの場面は《END》の文字であっさり幕引き、残されたわたし達は、わずかな高揚感を抱えながらいつもの日常へと戻る。

“越境レディ” はそんなお姫様を羨ましくも恨めしく、挙句のはてにあたしにゃ関係ないと強がるかしら。

この連載【 洒脱なレディ論 】では毎回映画や音楽、文学から舞台に至るまでさまざまな作品を通じて “レディ” を論じていく。第一回目の今回のテーマはROBEのキーワードでもある “越境レディ” 。そもそも越境とは境界を超えることーーー、白馬の王子様におんぶに抱っこじゃお荷物だって思うよね?

おとぎ話はハッピーエンドと相場が決まっているけれど、現代において白馬の王子様の出現率は極めて低い。じゃあわたし達は現実世界において、幸せむんむんになる資格はないって?もちろん、そんなはずはない。血眼になって王子様を探すのもいいけど、まずは王子様に求める「なに」を考えてみるのは如何だろう。すこし迷った女友達がいると真っ先に手渡してしまう映画を紹介したい。マフラーで顔の半分を隠した女の子が印象的なメインビジュアル。2008年に公開された映画、『PENELOPE(ペネロピ)』である。

column_penelople

名前はペネロピ、歳は25。名家の一族生まれで、生まれたときからブタの鼻を持つ。それは遡ること五代前、親戚の過ちが招いた呪いによるものだった。世間の好奇の目から娘を守らんとする母親により、自室と邸宅内でペネロピの人生は完結していた。その、クスッと笑ってしまう設定にあくまでもおとぎ話であることを想うが、”レディ” にとって顔面中央がブタのパーツだなんて死活問題。言わずもがな、愛娘を持つ母親にとっては、耐え難い事実だ。しかもその呪いを解く鍵は王子様からキスされること、愛を誓い合うこと、らしい。おとぎ話の相場通りだ。

よしんばこのおとぎ話において、ペネロピが “越境レディ” な理由はふたつある。

ひとつは外の世界へ自力で足を踏み入れたこと。

25年間の箱入り生活/18歳から7年間ものお見合い生活(しかも専用のお見合いスタッフまで雇って!)に辟易した彼女は、ある夜こっそりロンドンの街へと逃げ出す。家(といっても名家だから超豪邸!)から街へと越境し、マフラーで鼻を隠して心ゆくまま自由を享受する。夜の出店から漏れる光、大道芸人にはしゃぐ子供たち、公園に溢れるシャボン玉、パブで知り合う女友達、壁に根を張るクリスマスローズ、そしてア・パイント・オブ・ビール。見るもの嗅ぐもの飲むものすべてが新鮮で、と同時にペネロピは自分の足で立つことを知る。誰かに依存するでも、誰かに過保護にされるでもなく、幸せの手綱を手繰り寄せられることを知る。そして、呪いを解く鍵はキスだけではない、と。ブタの鼻という最上級のコンプレックスを抱えていた彼女は、箱入り娘から華麗な展望を遂げる。

そんな生活を経て、”I like myself the way I am!(わたしはいまのままのわたしが好きなの!)” と母親に言い放った彼女は、紛れもなく “越境レディ” に違いない。

もちろん、相場通りに『PENELOPE』はハッピーエンドで完結する。この場合、ハッピーエンドとは呪いが解けること。というと、ペネロピには白馬の王子様が現れ……たかどうかはぜひ確認して欲しい。しかしながら、ひとつ断っておくと、王子様からのキスでペネロピの魔法が解けたわけではない。解決方法は実にわたし達のリアリティとなんら変わらない。そこには、越境をするまでのお手本のような道のりが描かれているのだ。

ところで、誤解を恐れず書くとすれば “越境レディ” は欲張りだ。あたしにゃ関係がない、と前述したことを取り下げるつもりはない。が、決してお姫様願望がないわけじゃない。選んだ先で王子様が白馬に乗ってるのならば万々歳、手放しで喜んじゃったりもするだろう。だからこそ、待ってるだけじゃないんだよ、とわたし達は声を大にして言っているのだ。

想い人を前に、”I’m still me.(わたしはわたしのままよ)” と言ったら貴女は、すでに “越境レディ” だ。そしてそれは、ペネロピが “越境レディ” であるもうひとつの理由。 “越境レディ” とは、詰まるところ自分の選択に素直で居続けられることに帰結する、のかも。超える手筈は整えるまでもなかったみたい。王子様に求める「なに」を考えてみたら、見えるものは案外ある。

なぜならリアリティは〈END〉ひとつで幕引きなんてしないんだから。飛んでくぐってその先へ。数多の越境繰り返し、〈END〉のその先は、それまでよりずっと長く続いていく。
だからこそ越境の向こうにある〈エンド(END)〉抜きの〈ハッピー〉を、わたし達は手に入れるのだ。

 

『PENELOPE / ペネロピ』
監督:マーク・パランスキー
キャスト:クリスティーナ・リッチ、ジェームズ・マカヴォイ ほか
こんな時に観たい:自分の背中をちょびっと押したいとき、俗気のないキュンが欲しいとき

 

〈 おこぼれ話 〉
小汚いもののトラッドスタイルを見に包むジェームズ・マカヴォイが、終始醸し出す雰囲気も本作大きな魅力のひとつ。名家の子息として登場したものの、昼夜ポーカーに明け暮れるギャンブル漬けで訳ありげな雰囲気。好きなタイプは王子様!と言いながらも、結局惹かれるのはこういう男性でしょ?を具現化しちゃった感じがたまりません。その背徳感くすぐるは、なんといってもその瞳。見透かされたような澄んだ瞳は、あゝ眼福です。

 

洒脱なレディ論 とは、映画・音楽・本・舞台といった作品を通じて、様々なレディ像を紐解いていく連載です。混沌とした時代に軽妙洒脱なレディとして生きる指南書を、目指します。

Text. Midori Tokioka

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