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FACYが選ぶ2022年に読んだ漫画【特別企画】
今年も残すところ数日。皆様はFACYからのクリスマスプレゼントの3億円で良い買い物できましたでしょうか?次回は1月のお年玉企画を楽しみにお待ち下さい。年末年始はお店も休んでるし、自宅でやることもないと悩んでいるあなたのために、FACYは自宅で過ごすための特別企画をお送りします。第5回目は「年末年始に読むべき漫画」です。最近は少年ジャンプなどのメジャー誌から独立系の雑誌までネットチャネルを開拓しており、強い作家性がインディー漫画からも出てくるようになりましたが、今回は紙媒体の大人漫画から集めています。とは言っても、自費出版も入れてますが。2022年の内容を見たくない人は飛ばしてください。それぞれ配信サービスで視聴もできるため是非ご確認を。FACYの特別企画で、実りある年末年始を過ごし、初売りにはプレミアムショップの商品を、問い合わせ、取り置き、即日配送できるFACYを使いましょう。
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「インパーソナル」という言葉があります。フィレンツェ生まれの左翼評論家、花田清輝(アニメ脚本家の花田十輝の祖父)がよく使っていた言葉で、前近代的な情緒による人間関係でもなく、資本主義的な利害関係による人間関係でもない人と人との繋がりのことを指すとしました。機能的だが、ドライではない。史上の例としては、滝沢馬琴の嫁が失明した馬琴の代わりに字を覚えることから口述筆記を始め、『里見八犬伝』完成の頃にはほぼ合作と言えるまでに創作を昇華させたことを挙げています。近年の例を挙げると、『寄生獣』の主人公シンイチは、気弱な男子高校生。一方、シンイチの右腕に寄生するミギーは、動物的な合理性に貫かれた生物です。このコミュニケーションは取れるけど分かり得ない共存関係が前提にあるからこそ、後半の再会にカタルシスが生まれます。「日本のドラマ」で紹介した、『エルピス』もそうでしょうか。
少し遠回りをしましたが、『チ。』は知を紡ぐインパーソナルな人間を描いており、傑作です。世はキリスト教的世界観が支配的な時代。ほとんどの人間は教会が教える天動説に沿って暮らしていても問題はないけれど、地動説にWokeしてしまったものが、なんとか地動説を後世に繋ごうとします。特に4巻のオクジーとバデーニの関係は感動的です。元々、オクジーは、誰かの代わりに決闘を果たす殺し屋稼業を営んでいました。教育もろくに受けていないので、当初は文盲で、天体自体も見ることを罪を感じていました。一方、バデーニは当時の知識人としてトップのキャリアを歩んでおり、過剰な自信家です。バデーニからすると、「知は適任者のみが扱うべき」で、一般大衆に開かれるべきではない。オクジーが文字を覚えようとしたことにも否定的でした。この二人が地動説という可能性に突き動かされて、物語は進みますが、当然二人が見ている世界は違います。オクジーは地動説という感動を守るために動いており、バデーニは純粋に知性に動かされてます。当の二人も違いを認識しており、学問的な反証可能性を確保しながら事実を追求するしようとするバデーニの世界と、地動説への命を賭した信仰をしているオクジーの世界が、元文盲のオクジーによって語られます。
また、二人のエピソードが重要なのは、キリスト教の動乱期ではなく、むしろ安定した爛熟期にあたることです。もちろん、その後の物語では、キリスト教の思想的な支配体制を揺るがす出来事が描かれます。つまり、この二人の時代では、Wokeしないで世間的な価値観に合わせていれば、問題なく日常生活を送ることができます(オクジーは過酷な職業ですが)。しかし、そのような時代にありながらも、後の変革期を静かに準備するエピソードになのです。現代日本は、明治維新が好きな人に、よく動乱期に準えられますが、本当にそうでしょうか。戦後の価値観はとうに廃れつつあるが、日常は続く。むしろ今世紀前半の日本は、オクジーやバデーニの時代、江戸の文化文政のように振り返られるのではないでしょうか。
「文化文政といえば、江戸の文化は爛熟し、浮世絵に歌舞伎芝居にその粋が発せられた時代である。そうした頽唐の風の裡にあって、草莽の志は静かに養われていったのである。いやそうした風もまた草莽の文人が担い、硬風とも交錯した」(村上一郎『草莽論』)
フェリーニの『8 1/2』や、ゴダールの『軽蔑』、はたまたタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』など、映画の撮影現場を物語のネタにした映画は名作が多いと言われます。これは漫画にも言え、藤子不二雄Aの『まんが道』や、大場つぐみ、小畑健『バクマン』とこちらも傑作です。しかし、漫画というメディアが、ベンチャースピリットを持った先端的な若者文化だった時代はとうに過ぎ、爛熟期どころか斜陽にまでなったら物語のネタにできるのでしょうか?そんな「斜陽産業」の漫画を題材に描いたのが、松本大洋の『東京ヒゴロ』です。なので、主人公も中年の漫画編集者塩澤。自分が信じる漫画家のみで構成した漫画雑誌「夜」が廃刊した責任を取って、大手出版社を早期退職します。きっぱりと、漫画から足を洗おうと。更には、自分が人生を賭して部屋に集めていた漫画本を、ダンボールに詰め込んで古本屋に売り払おうとします。しかし、ダンボールを運ぶ際に、中から落ちた大友克洋や諸星大二郎、楳図かずおのコミックを見て、漫画を復興する情熱を取り戻します。もちろん、当初捨てようとした「斜陽産業」としての漫画は、日本社会の雰囲気としてもリンクして描かれます。
率直に言うと、現代漫画表現の頂点が展開されています。中年男性の地味な話に聞こえるかもしれませんが、劇中の漫画と、その漫画を描いている漫画家の生活描写がリンクする表現は、他に類を見ません。尾田栄一郎が、画集『ONE PIECE COLOR WALK5—尾田栄一郎画集 SHARK』で、松本大洋と対談し、「天才っているんだ」と驚きを表していました。つまり、その表現は、同時代の漫画家の中でも飛び抜けています。特に『東京ヒゴロ』では、劇中に複数の漫画家が登場し、それらの登場人物は、松本大洋によって漫画家としての命が吹き込まれるので、その天才ぶりを思う存分味わうことができます。例えば、塩澤が再び雑誌を興そうと会いに行く漫画家は、今も漫画家とは限りません。木曽かおる子先生は、長いこと漫画を描いておらず、今はスーパーマルケンでレジ打ちのパートをしながら家族と暮らしています。夫曰く、妻は「すごく元気な・・・血がたくさん出てくるような」漫画を描いていました。一念発起して描き始めた漫画は、カエサルを暗殺したブルータスが、オクタビアヌスへの陶酔の中、血まみれになって討ち取られる描写になっています。この描写と、東京でのパート風景を交互に重ねて行くのですが、不思議なことに美しくマッチしています。
松本大洋は、児童養護施設で育ったと言われています。このことが影響している分かりませんが、主要な登場人物として陰と陽がはっきりしています。つまり、世界の厳しい現実に直面して、孤立するクールな才能と、そんな世界自体を明るく照らすような、インクルーシブな才能です。『ピンポン』の月本と星野が分かりやすいでしょうか。『東京ヒゴロ』は、まだ2巻の段階では、世界を明るく照らす太陽のようなヒーローは現れていません。かつて、塩澤が担当していた漫画家みやざき長作がそのようなポジションになるかもしれませんが、塩澤曰く今は「空っぽ」の漫画を描いています。そのことは、長作も認識していますが、どのようにすれば輝きが取り戻せるか分かりません。このヒーローの不在が、「斜陽産業」となった日本社会と、塩澤の澄んだ泉のような孤独を際立たせます。
漫画界が誇る驚異的な才能は他にもいます。朝日新聞に『ののちゃん』を連載しているいしいひさいちです。毎回ちゃんと漫画として面白いことからもその才能が分かります。そんないしいひさいちが、『ののちゃん』内で展開していた吉川ロカに関する物語を加筆して、自費出版でリリースしたのが『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』。既にいくつかの漫画賞を獲得しています。内容は、ポルトガルの国民歌謡ファドの歌手を目指す吉川ロカは、高い歌唱力を誇りますが、歌に才能を吸い取られたのか、いろいろとぼんやりとした性分。そんな彼女と周囲の人間たちの交流がスラップスティックに描かれます。こんな物語を4コマ内ストーリー漫画として続けていたのです。
「周囲の人間たちの交流」の中でも、実はこの漫画は、吉川ロカと友人の柴島美乃の物語としてまとめられています。ぼんやりとした性格で、世間の荒波を乗り切るのが難しそうなロカを、姉御肌で竹を割ったような性格の美乃が陰に陽に支えます。なぜ美乃がそんなに頼りになるかというと、実は美乃の実家は柴島商会という暴力団。歌手としての興業をする際にも、いろいろと手を貸してくれます。しかし、とぼけた性格のロカと、ヤクザの家系の娘が仲良くなるのでしょうか?しかも、歌手になるためのバックアップもしてくれるとなると、普通以上の縁を感じます。実は、二人の親は同じ海難事故で亡くなっています。両親がなくなった後、ロカは叔父の家で育てられ、美乃は祖父に育てられます。この背景は、漫画では少ししか触れられません。「年末年始に観るべきアニメ」でも触れましたが、2020年前後の日本の娯楽作品は、災害や事故が出てきますが、それ自体は背景化、歴史化しています。もちろん、これは2011年に起こった東日本大震災から10年ほど経ったことが影響していますが、奇しくも20年以上前から書き溜められてきた『ROCA』とシンクします。
最終盤、美乃はロカに「もう連絡するな」と自ら関係を断絶します。これは、自分がヤクザの筋ものであることから、ファド歌手として華々しいキャリアを掴みつつあるロカに迷惑をかけたくないという、美乃なりの気遣いです。これを聞いたロカの表情は直接描かれませんが、美乃の意を受け入れたと思われる描写が続きます。時は何年も進み、柴島商会が火事で焼失したという会話とともに、現地が描かれます。焼け跡となったガレージには、ファド歌手となったロカの姿が今もポスターとして飾られています。ポルトガル語には、「サウダージ」という言葉があります。ブラジルへ移民したポルトガル人が、故郷を懐かしむ気持ちを意味します。作中でも、「切ないだけでない。儚いだけでない。一言では言われへん複雑な感情表現。」とされます。『ROCA』はまさしく漫画でサウダージを表現した漫画です。
いかがでしょうか?よくファッションメディアでは、内輪受けで始めたベストバイ企画を惰性で続けていますが、やってる本人もつまらないものです。特別企画はコンテンツにまとめました。是非、FACYの特別企画で、実りある年末年始を過ごし、初売りにはプレミアムショップの商品を、問い合わせ、取り置き、即日配送できるFACYをダウンロードを。
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