「やるからには笑われる覚悟を持て」ている?〈シング・ストリート 未来のうた〉【洒脱なレディ論】

「ロックンロールは "リスク" だ。やるからには笑われる覚悟を持て」

鑑賞中にノートとペンが手放せないわたしが走り書きしていたのが、タイトルにしたこの台詞。その日の夜、感傷に浸りながらサウンドトラックをDLしたらご丁寧に楽曲#0にそのまま収録されていた。イヤホン越しにそれを聞いて思わず、胸を撫でおろす。どうやら製作陣からの投げかけをきちんと受け取れていたようだ。

音楽映画ファンの心を虜にしてやまないジョン・カーニーの最新作は、前作につづき舞台はダブリン。時は1980年、思春期真っ只中の引っ込み思案の少年コナーがバンド活動を通じて成長していく様を瑞々しく描いた良作だ。不況ゆえに失業した父の独断で、敬虔な私立学校から荒れる男子校へと編入することになるコナー。自己確立のために、そして一目惚れした女の子を振り向かせるため、バンド「シング・ストリート」を結成し音楽の世界へとのめりこんでいく。お読みの通り、これだけだとありがちな青春映画のような筋書きであり、実際にその指摘は間違ってはいない。しかし多くの映画人音楽人といった玄人が口を揃えて絶賛する理由は、この2つに絞れるような気がしている。「音楽愛溢れる緻密なスタッフワーク」と「 "青春が持つ純粋なまでの輝き" の再現性」だ。

音楽愛溢れる緻密なスタッフワーク


何と言っても特筆すべきは劇中を彩る名曲の数々。ジョイ・ディヴィジョンデュラン・デュランザ・キュアザ・クラッシュといった、当時の80年代UKロックへのオマージュをまぶした挿入歌の数々は、鑑賞後も一向に鮮明さを失わない同時に、この年代はMTVに端を発した、"音" のみならず当時最先端のイケてる表現とされた "MV映像" が、この映画をより映画たらしめる役割を果たしている。

(UKロックの主戦場がロンドンともなれば、リアルタイムでアントン・コービンがUKロックスター達を片っ端から撮影していた時代。実際にアントンは初の監督作品〈コントロール〉でジョイ・ディヴィジョンのボーカル、イアン・カーティスの自伝を撮影している。)

70年代のパンクからの反動か、内省的で陰鬱さが色濃い80年代のUKロックは、思春期の果てしない悩みと相性が良い。それが特に特徴的なシーンは、"happy-sad feeling" の形容としてコナーの兄・ブレンダンが選んだザ・キュア。これが90年代の出来事だとしたら真っ先にHighをコナーに差し出してたかしらと思わず広がる想像、妄想。

UKロックに限らず、ラフィーナの登場シーンは〈グリース〉のサンディのそっくりのロカビリールック、校内ディグのシーンでは赤い革ジャンを羽織ったブレンダンはまるで〈ウェストサイドストーリー〉のリフではないか!ご丁寧にランブルシーンまで再現されており当時のファンには涙ものだ。

シング・ストリート 未来のうた

"青春が持つ純粋なまでの輝き" の再現性


往往にして、青春だけの輝きみたいなものに人はめっぽう弱い。80年代に "青春" を過ごした人は幾度となく首を縦に振ったろうし、ミレニアル世代のわたしたちは似て非なる80年代の "青春" を追体験しただろう。

似て非なる、を増幅させているのがやはり技術革新によるところ。2016年なら、彼女の自宅のポストに録音したカセットテープを投函しなくてもスマホで録音してボイスメールを送ればいいし、急に遠くへ行ってしまってもSNSでストーキングしてしまえばどこで何をしているかはだいたいわかる。不便さと空白がもたらす余計な解釈は、現代社会の "青春" にとってはむしろ新鮮だ

もうひとつ言及しておきたいのが、青春映画のエンディングについて。ハッピーエンドのエピローグがhappily ever afterだという保証はないし、コナーとラフィーナは早々にダブリンへ舞い戻ったかもしれない。よしんば今回に限っては、エピローグの考察はナンセンスだと言いたい。なぜって、『シング・ストリート 未来へのうた』は他の誰でもないジョン・カーニー自身の青春が原案であり、ダブリンから遥か遠いトーキョーにはこの映画を観んとて足を運ぶ人たちがいるからだ。

その上でラストシーンを観ると、祖父のクルーザーのシーンはこれ以上なく眩しい。BGMはマルーン5の “GO NOW” 。同監督の前作〈ONCE ダブリンの街角で〉からのエールのような出来すぎた演出。それは80年代のUKロックへのオマージュを描き切ったカーニー自身が、まるで2016年以降の未来へと歴史を紡いだようだった。1人で天才になる人間などいないし、誰もが誰かの系譜を引き継いで今日に至るわけで、歴史とフィクションが混同する瞬間を垣間見て、思わず目頭が熱くなってしまう。

もし、やってみたいことがあるのに胸が燻って見えない何かが足かせになっていたら、 貴女はコナーの勇姿に魅了されるはず。最後の最後にコナーみたいな選択が採れますよう、引用のダメ押しで締めくくろう。

「汝の道を進め、そして人々をして語るにまかせよ!」(ダンテ『神曲』より)




『 シング・ストリート 未来へのうた 

監督・脚本:ジョン・カーニー
キャスト:フェルディア・ウォルシュ‐ピーロ、ルーシー・ボイントン、ジャック・レイナー ほか
こんな時に観たい:やりたいことに一歩踏み出す勇気が欲しいとき


 

洒脱なレディ論 とは、映画・音楽・本・舞台といった作品を通じて、様々なレディ像を紐解いていく連載です。混沌とした時代に軽妙洒脱なレディとして生きる指南書を、目指します。

Text. Midori Tokioka


illustration. Hitomi Ito



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