音楽に青春というプロローグを。〈ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール〉【洒脱なレディ論】

CULTURE 2017.01.28
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映画鑑賞中、手元のノートにメモを取る癖のあるわたしは物語中盤、イヴの言葉にハッとする。『この先の10年を社会に文句を言っているだけで過ごしていいの?』この言葉を思わず走り書きで、書き留めた。ゴッド・ヘルプ・ザ・ガールーーー、20代前半のわたしにとってはまるで生き写しのような映画のひとつだ。

精神疾患ガールの爽やかなまでの成長物語





高校卒業後してすぐ男を追って渡英したイヴは精神を病み病院暮らし。物語はその病棟を抜け出して潜り込んだクラブで心優しいギタリスト(だけれども大学内にあるプールのライフガードで生計を立てている)のジェームズと出会うところから始まる。ジェームズはスクールカーストの底辺を生きてきたようなTHE 文化系ボーイ。ギタリストとしていつか自分のレコードをリリースすることを夢見ながら、現実は日々ライフガードで日銭を稼ぎ、クラブで自作の歌を披露しようものなら地元のギャングに叩かれる。

そんなさえないジェームズを気に入ったイヴはある日、彼の住むアパートメントの隣の部屋に転がり込む。ウェイターの仕事を見つけ、病院から持ち出した薬が減っていくのに比例して、充実した新生活を始めていた。そんな毎日において、ジェームズがイヴの音楽の才能に気づくのにそんなに時間はかかるまい。すぐにジェームズは彼女を名ばかりのアシスタントに命名し、教え子キャシーの元へと訪れる。私立学校に通う生粋のお嬢様であるキャシーは、大した才能もないのに歌を作りたい情熱はジェームズを個人レッスンを依頼するほど。こうして集まった3つの才能は、1つのバンドとして開花する。

…と、ここまで読んだ方は、音楽を通じてヒロインが自己発見をするなんてきっとわたしたちはハイスクール・ミュージカルでお腹いっぱいだと仰るかもしれない。たしかによくあるといってしまえばそれまでのあらすじだろう。それが新鮮なのは終始曇り空で展開される物語の色合いと、それを助長させる全編16mmフィルムで撮影された映像の果たす役割は大きい。

そもそもこの映画は構想から数えると10年もの月日をかけて作られた映画。ベル・アンド・セバスチャンのフロントマンであるスチュアート・マードックがランニング中に思いついたフレーズから端を発したこの作品は、彼自身が引きこもり生活を経験していたこともあり、イヴはどこまでも繊細で詳細に、そして物語は常に優しいトーンで紡がれていく。

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唯一の救いは、歌うこと


バンドのサクセスストーリーでもなければましてや恋愛映画にすら属さない。それどころかどこにも着地点を持たぬまま、バンドは解散。結局、イヴはグラスゴーという小さな田舎町から飛び出しロンドンの音楽大学を目指す。ジェームズはあいかわらずライフガードの生活だ。別の道を選んだ経緯は、まさしくスタンスの問題である。イヴにとって音楽というものは、いま以上に広い社会と共有したいという目的において唯一の手段であり、それは「自分のレコードが出せれば満足、誰が聴くかは二の次だ」というジェームズの想いとはとっくに違ってしまっていた。「小説や映画ならあなたたちは恋人同士になるはずなのに」「僕らはちがう。イヴにとっての唯一の救いは歌なんだ」というキャシーとジェームズのやりとりがその核心を突いている。好きの一辺倒だけでは、惚れた腫れたは続かぬというのは世の常のよう。


評論家らしく時代背景を分析して共通点を見つけては賛否を述べる……ことよりも、主人公と同じ目線で「今」に胸を焦がすことをこの映画においてはオススメしたい。特に、いまレディへと向かう同世代の一人として。殊にゴッド・ヘルプ・ザ・ガールは、人生のこのポイントで出会えてよかった作品のひとつになること請け負いです。

そして観た後にぜひ問わせてください。『この先の10年を社会に文句を言っているだけで過ごしていいの?』と。さあ、貴女ならどんな答えを用意する?

God Help The Girl / ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール


監督・脚本:スチュアート・マードック
キャスト:エミリー・ブラウニング、オリー・アレクサンデル、ハンナ・マリー ほか
こんな時に観たい:ひとつの恋が終わったとき、次の環境へ行くとき

公式サイト


 

〈 おこぼれ話 〉
ゴッド・ヘルプ・ザ・ガールと同時期に、 BORN TO BE BLUE という映画を鑑賞する機会に恵まれました。イーサン・ホーク演じる伝説のトランペッター、チェッド・ベイカーの半生を描いたこの作品は、一度地に落ちた名声の復活という華やかさの裏で、恋人の支えも虚しく麻薬に溺れる彼自身のリアリティをおぞましいほどに大衆的に描いた秀作。芸を極めるために孤独はいつも付きまとい、それでも芸術家は愛と引き換えにしてでも芸に惹かれることもある、と。(本邦公開の情報が一向に耳に入らないことが信じ難いほどに素晴らしい作品だと思っている。※ 2016年冬より無事、日本公開。)もっとも、麻薬や名声といった類いの単語は、瑞々しいゴッド・ヘルプ・ザ・ガールの世界には縁遠い。それでも、イヴにとっての唯一の救いが歌(音楽)であるという点と、チェッド・ベイカーとの共通点を鑑みればわかるように、ゴッド・ヘルプ・ザ・ガールが一辺倒な恋愛映画や青春スポ根映画とも一線を画しているという事実に、底なしの不気味さを感じてしまったのはいうまでもありません。


洒脱なレディ論 とは、映画・音楽・本・舞台といった作品を通じて、様々なレディ像を紐解いていく連載です。混沌とした時代に軽妙洒脱なレディとして生きる指南書を、目指します。

Text. Midori Tokioka (@mdrtkk)

Text&Edit : midori

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