"惰性の世界" から抜け出すために必要なたった1つのこと〈タイタニック〉【洒脱なレディ論】

CULTURE 2017.02.27
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毎日代わり映えのない毎日でつまらない?そんなことを思っている方に勧める作品になるとはつゆぞ思いもしなかった、というのが正直なところ。

きっかけは映画人と "好きな映画" の話をしていたとき久しぶりに耳にしたことだった。日本で公開された当時年端もいかぬ少女であったわたしは、母と姉とで映画館に観て以来この映画を観ていない。理由があるとすれば、有名すぎて敢えて観る対象に挙がらなかったのだ。加えて3時間という鑑賞時間を確保する難しさもさることながら、ひとたび観た日にはとてもじゃないが現実世界に戻れそうにない。ということで満を持して意を決して20年近い年を経た先日、人生2回目の〈 タイタニック 〉の航海に出た。

1912年、当時浮沈船と言われた超大型客船・タイタニック号が処女航海にして沈没したわずか5日間の物語。一連の沈没事件そのものは、一世紀を経てなお謎に包まれるが、そこは歴史研究家にお任せしたい。今回なぜ誰もが知っている超大作を取り上げたかったのか、それは主人公ローズの覚悟に感銘を受けたからに尽きる。てっきり沈没船に翻弄された悲恋の物語かとレッテルを貼っていたことを軽く悔いたほどだ。

とても象徴的なシーンがある。

ローズがジャックのスケッチブックを見る場面だ。描かれていたのはジャックがそれぞれの旅地で出会った女性たち。下半身不随だが手がものすごく美しい女性、帰らぬ恋人を待つためにありったけの宝石を身にまとう老婆、そのなかでローズが目に留めたものがフランス人女性をモデルに描いたヌードデッサン。「パリの女はすぐ服をぬいでくれるから助かる」とジャックがいう通り、ここでフランス人女性は〈 自分で選択する意思をもち生きる Liberté のアイコン 〉として、描かれていた。その時は顰めっ面をしジャックを蔑んだローズだが、翌日、ジャックに一つのお願いをする。フランス女のように一糸纏わぬ姿を描いてほしい、と。物語ではジャックの "遺作" となったローズの絵画が現代につながるストーリーの鍵になるわけだが、さて、ジャックとの悲恋を乗り越え "惰性の世界" から抜け出すために必要だったもの、それがこの "遺作" に象徴されてはいないだろうか。

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一見華やかに見える社交界、だがそこは、親の政略結婚のコマにされ婚約者からは愛ではなくお飾り扱いをされ、同じ面々により同じ会話が繰り返されるーーー、誰一人として助けてくれない "惰性の世界" であった。その状況に辟易し、自殺を図ったローズにとって、助けに来たジャックはまるで青天の霹靂だったに違いない。当時のジャックは世界中を旅しながら絵描きで日銭を稼ぐその日暮らしをしていた。タイタニック号の乗船券もポーカーで勝ち取ったというほど。

"奴隷船" にいた彼女にとって、服を脱ぎありのままを描いてもらうという選択は、自身を取り巻く世界のすべてを拭い去り自由になりたいという意思を暗に示していたかのようだった。

ご存知の通り、その夜氷山に衝突した "浮沈船" は、1500人以上の命を伴い海の底へと沈んでいく。凍死したジャックとの別離は、同時に親の強制や婚約者の脅威といったこれまでローズを縛り付けていたものからの別離でもあった。深い悲しみは同時に、お家や婚約といった重い錨を振り解きようやく自由に人生の航海を漕ぎだしたローズの門出でもあったのだ。

仮に、ジャックと出会うことなくタイタニック号が沈没していたとしても、上流階級女性であったローズは救命ボートに乗り、翌朝カルパチア号に救助されただろう。だが異なるのは、きっと彼女の横にホックリー卿と母ルース・デウィット・ブケイターが寄り添っているであろうこと。乗船前と全く変わらないこの状況こそ彼女にとっての死を意味しており、その意味でジャックは死の淵にいた(実際に出会いの場所は自殺を図った船の淵だったことも暗示しているように思う)ローズと入れ替わるように死を受け入れたことになるだろう。

現に、登場する老婆となった現代のローズは孫娘が看病していた。それが誰の子かは明かされていないが、諦めず自分の人生を生きる、それはジャックとの最後の約束であり彼女は自分の選択で、きちんとそれを全うしようとしていた。

待っているだけで誰かが "惰性の世界" から救い出してくれるなんて思ったら本末転倒だけれども、もし毎日やってくる選択を自分の意思で行うことができるのであれば、それは全うすべき "自由" に値する、なんてことを彼女の Liberté から学ばせてもらった気がしてならない。

 


『TITANIC / タイタニック』

監督:ジェームズ・キャメロン
キャスト:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、バーナード・ヒルほか
こんな時に観たい:一日中感情を引きずれるとき、日々を新鮮に感じたいとき


 

〈 おこぼれ話 〉
そういえば、第88回アカデミー賞のディカプリオ氏の受賞コメントが話題になりましたね。 "Let us not take this planet for granted. I do not take tonight for granted. Thank you." 今宵の時間も今日には過ぎ去っていってしまうもの。毎日やってくる1日という未知の時間を "gift" と捉えシンプルに今を生きるジャックと重ね合わせてしまい、胸が熱くなりました。

そして!お気付きかと思いますが今回からコラムの挿絵をイラストレーターの hitomiさん が描いてくださることになりました。絵描きであるジャックを書いたタイミングに、不思議とご縁を感じてます。ちなみにジャックが描いていた劇中のスケッチはすべてJ.キャメロン監督によるスケッチ。ローズを書いていたシーンは利き手が異なるからといって画面を反転させたという拘りっぷりは頭が下がります。ということで、これからぜひ挿絵にご注目くださいね。

 

洒脱なレディ論 とは、映画・音楽・本・舞台といった作品を通じて、様々なレディ像を紐解いていく連載です。混沌とした時代に軽妙洒脱なレディとして生きる指南書を、目指します。

Text. Midori Tokioka


illustration. Hitomi Ito


Text&Edit : midori

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