「仁」が変えるパリの寿司。北海道からフランスへ、地産地消で挑む食文化の継承

CULTURE 2017.02.21
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異国を旅した時、誰しもが恋しくなってしまう故郷の味。日本食とはなんだろう?繊細な味、四季を感じる素材、多彩な表情を見せる盛り付け…私たち日本人ですら何度も恋に落ちてしまう日本食の魅力は、世界でどう響くのか。

パリ1区、高級ブティックが並ぶサントノーレ通りから一本入った細い小道、ファッショニスタが集う有名セレクトショップcoletteの近くに店を構える「仁」はパリ中の食通が足繁く通う寿司店。2014年にはミシュラン一つ星を獲得し、パリの中心で本物の日本食文化を発信している貴重な料理店だ。

世界中から食にも敏感な業界人が集まるファッションウィークは繁忙期。その合間を縫って、料理長の渡邉卓也さんにパリで日本食の文化・魚の魅力を発信している理由について伺った。

伝統に伝統で挑む


北海道・ニセコ出身の渡邉さんは地元の新鮮な食材に囲まれて育った。母と一緒に台所に立ち、たわいもない話をしながら料理の手伝いをするのが大好きな少年だった。友人と遊ぶ時も外食ではなく手料理を振る舞い一緒に食卓を囲むことが多かったという。

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料理人を志したのはそんな生い立ちからみれば、ある意味必然的だった。専門学校では中華を学び、その後札幌の寿司店で料理人としての道を歩み始める。28歳の時に独立し、札幌で「TAKU円山」「田久鮓」など4店舗を展開するが、「人と違うことにチャレンジしたい」という気持ちから海外への挑戦を決める。1月に初めてパリを訪れてからたった10ヶ月後、フランスへ移住したのは2012年11月のことだった。

フランス・パリに決めたのは一度も訪れたことがなかった未知の都市、世界一の食の都だから。そして現在、仁のオーナーである仁奈さんとの「出合い」が起点となった。フランス留学の経験があった仁奈さんは「大好きな日本の食文化で日本の誇りを正しく伝えたい」という思いを抱いていた。一念発起しパリの中心で日本食のお店を開こうと物件の契約を結んでいるときに、渡邉さんと「出合う」。日本の食文化を伝えたいという二人の思いがぴったりと合ったことで、パリ随一の寿司屋「仁」が誕生する。

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「寿司文化を広めるには食の都として名高いこの地から始めるのがストーリーとして面白いと思った。何よりも伝統を大事にするこの国で日本のトラディショナルな食文化を武器に店を開く、高い壁だがこうした挑戦が日本の食文化を広めるためには必要なのでは」と渡邉さんはその時の決意をもう一度表現するかのように力強く語ってくれた。

地産地消で異国の文化を伝える


渡邉さんが渡仏した当時パリで根付いていた寿司はロスやNYで見たロール寿司とは違い、意外と日本らしくやっているなという印象だったという。しかし、獲れる魚の違いから、こちらの握りの主流はサーモンやカニ、本マグロではなくバチマグロなどだった。

彼にとってそれは決してマイナス要素ではない。北海道で店を構えていた時から料理のコンセプトには「地産地消」を掲げている。フランスにいるならば日本の食材を使っては意味がない、と仁ではフランス近郊で獲れる食材をメインに使用。魚が育つ海水自体にコクがあり身の味がしっかりしているので日本とは味も食感も異なるのだそう。パリの食通を唸らせる寿司は、しっかりと現地の食材を尊重して握られている。そうすることで唯一無二の味わいになるのだ。

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一つ問題があるとすれば、それは魚に対する認識の違いにあった。「魚を下ごしらえするという文化がフランスでは浸透しておらず、切ってそのまま出してしまう寿司店もありました。例えば身がダメにならないように塩を当てたり、酢でしめたり、漬けにしたり、寿司を握るには食材によって様々な技法が用いられています。そうした下ごしらえや細かな調理方法を含めて寿司という食文化なので、まずはパリで魚の扱い方や認識を変えていきたいです。」そう語る渡邉さんの意志は固い。そしてその目標は着々をパリの街に浸透している。

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「フランスは古くから肉文化なので魚、特に鮮魚の正しい扱い方の認知度が低い気がします。でも元来フランス人は食材に対する意識は高いので、日本の本物のやり方を伝えれば必ずわかってもらえると思っていました。」渡邉さんの言う通り、仁がオープンしてからパリで鮮魚に対する認識が変わった。後に続くように本格的な寿司屋がオープンしたり、スーパーの一角でデモンストレーションをして巻きたてを販売していたり、一般の人でも日本らしい寿司を食べられる環境が徐々に整ってきたのだ。

マリアージュは日本酒で


「ひと と さかな と さけ」をコンセプトとする仁の魅力は寿司だけではない。パリ随一の品揃えを誇るこだわりの日本酒もパリジャン・パリジェンヌを引きつける要因の一つだ。魚と一緒で、仁がオープンする以前のパリではレストランで提供される日本酒の種類が少なく、どこに行っても同じような銘柄しか置いていなかった。中国系の人が運営する日本食店も多く、中国酒もSAKEと表記している場合があるため日本酒と勘違いする人もいるようで、フランス人の中では「日本酒=度数が高くてウォッカのようなお酒」というイメージがあったそう。


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仁では魚との食べ合わせを追求することで日本酒に対するイメージを払拭した。日本酒はワインと同じで食べ物との組み合わせが大事。日本酒しかないと聞いて険しい表情をする客にもこの食材、この料理にはこの銘柄が合うと説明をすると、探究心の強いフランス人には寿司と日本酒の奥深さが非常に興味深かったよう。それはまさに寿司と日本酒のマリアージュなのだ。

「フランスの食材って味が濃くて余韻が長いので、深みのある日本酒ととてもよく合うんです。地場の食材と日本の酒のマリアージュを感じてくれればお店をやっている甲斐があったかなと思います。」

北海道からパリへ。そして世界へ


客層は観光客から地元の人までさまざま。地元の人々は記念日や会食で使うことが多いが、観光客は若い人もやってくる。ランチ95ユーロ、夜は145ユーロのコースで決して安いわけではないけれど、ここでしか味わえない地産地消の本物の寿司が食べられるとリピーターも多い。

「食の都・パリに根付く食文化を変えるきっかけを作れたのかなと思う。フランス人は古いものを愛し、伝統を重んじ自らのスタイルを頑なに崩さない一方で、ゼロから新しいものを生み出す革新的なクリエイティビティも併せ持つ。そういう人たちに受け入れてもらえたのは自分が寿司職人として日本の食文化を発信していく上で自信に繋がりました。」

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来年の1月でパリにやってきて丸4年。これからの目標はパリをベースにしながら違う国で店舗を展開していくこと。「地産地消でその土地の食文化を尊重し貢献するというコンセプトはぶらさずに、この4年間で築き上げてきた世界で通用する日本の寿司文化を、もっと多くの人へと広めたい。」

北海道からパリへと渡されたバトンはどこへ継がれるのだろう。身近なはずの日本文化の魅力は世界に出てから気づくことも多い。パリへ旅した際は日本の食文化を見つめ直しに仁へ訪れてはいかがだろう。新鮮な魚と味わい深い日本酒、ほっと一息つくあがりをいただけば、懐かしくも出会ったことのない味に驚かされるはずだ。
JIN 仁
Address 6 rue de la Sourdière 75001 Paris
Tel +33(0)1 42 61 60 71
Open 12:30〜13:30/19:00〜21:00(日月休み)
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Text. Azu Satoh

Text&Edit : azu

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